Chiyoda Gakuen
春3月、慌ただしく毎日が過ぎて行きます。卒業、卒園、そして晴れて退職。忙しさに感けて、つい見過ごし勝ちになっていましたが、手に取った新聞記事に目を奪われました。医療や福祉を巡る報道に冷水を浴びせられた思いがしたのです。掲載されていた記事を二つ三つ拾ってみただけでも、改めて今日の社会の軋みを、今更ながらではありますが気づかされました。
その一。介護施設や居宅サービスの職員による高齢者虐待が、2015年度に408件を数え、高齢者虐待防止法が施行された2006年度の調査開始以来9年連続で最多を更新したと報じられています。被害者の8割が認知症で日常生活に支障がある人だったとも記されています。又、家族や親族による虐待は1万5976件に上り、3年連続で増加したとのこと。それぞれ被害者数は778人と1万6423人。今にも崩れ落ちそうな切迫した介護現場の状況が伝わって来ます。そしてこうした事態を改善するためには、介護知識を有する人材の育成と介護報酬のアップが不可欠だと指摘しています。
その二。精神科病院で手足をベッドに括りつける等の身体拘束や、施錠された保護室への隔離を受けた入院患者数が過去最多となり、隔離は初めて1万人を突破し1万94人、拘束は1万682人。何れも自傷他害の恐れありとの理由からでしょうが、人権侵害を懸念する声も上がっていると指摘されています。
その三。成人男女のうち、本気で自殺念慮に囚われたことがあると答えた人が厚生労働省の調査で約4人に1人、23.6%に上ることが分かりました。え、本当に?一瞬目を疑いました。50代の男性に限って見れば、30.1%の人が自殺したいと思ったことがあるとのこと。どうして絶望の淵に誘われたのか、原因までは紹介されていないのですが、只事ではありません。
無念というほかない今日の有り様に向き合うためには、相当の覚悟が必要だと思われます。何故なら、それは社会経済状況の激変によってもたらされたものであることは誰もが知るところだからです。そしてその結果、人と人との関係が疎遠となり、これまで、私達を繋いでいた紐帯がすっかり切れてしまったことが、困難に拍車をかけているのではないかとの思いが募って来ます。蕭条とした心の内が透けて見えて来るようです。
だとすると、今私達が取り戻さなければならないのは、先ずは人間関係の今日的再構築に相違ないと、半ば確信的に私は思っています。自律に基礎を置きつつも、共感性を育み、他者に自分を重ねられる想像力こそが、排他的行動や自己利益第一という偏狭な行動原理を抑える何よりも確かな担保になると信じたいのです。強きものが力ずくで伸し歩く世界ほど醜いものはありません。今、とりわけ福祉の分野で起きている様々の事象は、呻吟しながらも必至になって被援助者を支えてきた援助者が、疲弊して被援助者との間に抜き差しならない亀裂が生じ、遂には弱きものへと攻撃、の矛先がむけられ、事件に至るという構図ではないでしょうか?理不尽に翻弄されて堪るかと自らを戒め、鼓舞して一歩を踏み出したいものです。千代田学園が目指す対人援助専門職は、高い人権意識、豊かな知性や感性、そして確かな技術を具備する文字通り、斯界のリーダーの育成です。そして暗雲を吹き払い、私達の住まうこの社会に希望を届ける重要なポストの担い手としての自覚を持って、多くの国民と力を合わせ、人間らしく生きる権利としての福祉の一層の充実のためにも積極的に取り組んで欲しいと願っています。
心の扉を開けて、さあー、地域社会に網の目のネットワークを張り巡らせる取り組みにともに着手しましょう。
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