Chiyoda Gakuen
ご挨拶
この度、大阪暁光高等学校にて、戦没画学生慰霊美術館「無言館」館主、窪島誠一郎氏のご厚意により、第二次世界大戦で被爆死された二人の画学生の展覧会を開催する運びとなりました。文字通り望外と言う他ない貴重な機会を与えて頂き叶った展覧会、一人でも多くの人たちに是非ご覧いただきたいと切に願っています。とは申せ、何故信州上田から、遠路南河内の本校にまで作品が送り届けられるようになったのか、その謂れからご紹介いたしましょう。
そもそも窪島氏は、村山槐多を初めとする、夭折の画家のデッサンを収めた美術館「信濃デッサン館」のオーナーでした。唯一無二の美術館には、「生きる」ことへの狂おしさに、身悶える彼らの息遣いの気配が満ちていました。その感慨がある日、唐突に私を窪島さんに結び付けます。政令指定都市になったのを機に、堺市教育委員会は全国で頑張っている中学生を励ます美術クラブの部展「アートクラブグランプリ・イン堺」を実施することにしたのです。そして教育長の職にあった私が条件の一つとしたのが、窪島さんに審査委員になって頂くことでした。作品の出来栄え以上に、「やむに已まれぬ思いを抱えた」中学生だからこそ描き得た世界。その一点に関しては誰よりも鋭く感応されるであろうと、もう決め打ちでした。以来12年間窪島さんは審査会に皆勤されています。
その窪島さんに、またご無理をお願いしました。健康が優れないことを承知しつつも、千代田学園の学生、生徒と「無言館」の絵画をして語らしめる交流ができないものか、言葉にならない言葉の力、恐れや勇気、あるいは生きて今ここにいることそれ自身を尊び、一人ひとりの中に気付いていないであろう慈しみの心を引き出して貰えないだろうかと、お願いしたのです。一呼吸を置いて「いいよ」と言って下さいました。
2019年4月、窪島さんには晴れて、大阪千代田短期大学特別招聘教授としてご就任頂き、早速大学と高校の学生、生徒それぞれに語り掛けられた一語一語は、時に鋭く、時に諧謔を交え、聴く者の心を鷲掴みして離さない魅力に溢れた実に愛おしい時間となりました。生憎その後一時体調を崩されもしましたが、その間生徒達は病の平癒をひたすら願い、手紙を書き、再会を待ち望んでいたと聞いています。幸い健康を回復され、この度のかけがえのない展覧会を開催することが出来たのです。「無言館」に収蔵されている被爆死の二人の画学生の絵画から、私たちはなにを感じ取るのか、言葉なき世界に分け入ってみましょう。23日には窪島さんも来校されます。窪島さんとの交流も含め、一点一点心ゆくまでご覧になってくださいますようご案内申し上げ、ご挨拶と致します。
2019年8月
学校法人千代田学園
理事長 髙橋 保
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